IPOベンチャー今昔物語
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IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 11

僕は浅はかにも島村社長の言葉を鵜呑みにしている間に時間は流れ、メディカルイクイップメント社は決算をむかえました。

決算が固まった頃を見計らって、島村社長にアポイントを取りました。

あまり時間がないと言うことで、決算書だけをもらってその日は帰りました。


会社に帰って決算書に目を通すと、未収金が増えているではないですか。

変だ、おかしいと思い隈なく決算を分析しました。
どうも数字がおかしい、BSもちゃんとバランスしているのだけれど、なんか変だ。


慌てて島村社長にアポイントをとって話を聞きに行きました。


「社長、何故未収金が増えているんですか?」

「大丈夫、大丈夫。ちょっと回収が遅れているだけだから。」

「本当のこと言って下さい!」
詰めること4時間。

応接室の電話の受話器を取り上げて、社長はぼそっとした声で言いました。
「柏原に応接に来るように言って。」

柏原取締役が帳簿らしきものをいくつか持って応接室に入って来ました。

「本当のことを説明して…。」

柏原取締役の手には二冊の手形帳が握られていました。


「えっ…。まさか・・・裏手形…。」


柏原取締役は静かに頷きました。

「なぜそんなことに?!幾ら振出しているんですか!」


「四億です。」

消え入りそうな声で島村社長が答えました。

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 10

メディカルイクィップメント社は順調に成長し、私も安心しながらも第2回の本格的な資金調達のファイナンス時期を迎えようとしていました。


ある日、島村社長とのミーティングの際にどうもいつもと雰囲気が違うのです。
問いただすと、第2回のファイナンスは銀行だけに割り当て行うと、柏原取締役が言って梃子でも動かないと言うのです。
私も、そんな酷い話はないと、あれだけ協力してやっていこうと話をしたのに、今回は割り当てなしは無いと不満をぶつけました。

しかし、商社はどうしても銀行借り入れが多く、基本的には銀行との縁を大切にします。
申し訳ないと島村社長に頭を下げられ渋々諦めました。
第2回の第三者割り当の割当先は銀行だけなので社内でも仕方ないという形になりました。

しかし、このときから少しずつメディカルイクィップメント社の歯車はずれ始めていたのでした。



月に一度、メディカルイクィップメントに社月次試算表をチェックに行っていた時のことでした。
月次試算表というのは、一月単位で決算を締め、月単位で会社の状況チェックする為作る損益計算書と貸借対照表のことです。

その月次試算表で前月から気になっていた未収金の40百万円がそのまま残っていることに気付きました。
それについて、島村社長に尋ねると回収が遅れているが問題はないとのこと、その時はその言葉を信じました。

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 9

実はこの新株予約権付社債を株主割当で発行するのに大きな問題があります。


この新株予約権付社債は総額1億円近い額になるのですが、当然それを引き受けるお金は経営陣にはありません。
ですので、通常は一度VCが引き受けて、新株引受権と社債部分を分離し、新株引受権だけを経営陣に譲渡し、社債は引受後、早期償還させるというスキームが通例でした。


しかし、今回は株主割当なので、株主が引受けなければいけません。
ということで、事前に社債の売買契約を結んでおき、払込と同日でVCへ社債部分を売却するということを、同じ銀行内で行ってしまうという作業をしました。

同行内での同日取引をすることで、一度引受けたものをすぐにVCに売却したという風に見せる裏技を使ったわけです。


当然、銀行の協力がなくては出来ません。
支店長室を借りて、すべての資金移動を行ってしまうのです。



今となってはかなり反則技のように思いますが、無事ファイナンスは終わりました。
こうして、私たちは100株の新株を1株11万円で取得し、経営陣は6:3:1の比率になるように、行使価格50,000円の新株引受権を手に入れたのです。

株主になったあとも、会社は順調に成長していきました。


(続く)

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 8

今回からは本筋に戻りましょう。


資本政策の策定において幾つかの条件を出されました。

①資金調達は僅かで良いが、同時に経営陣の持ち株数を大幅に上げたい。

②経営陣に手持ちの資金がない

③このタイミングで、社長、専務、取締役の3人の持株比率を現在の8:1:1から6:3:1になるようにしたい。


先方のニーズはこれだけでした。

しかし、これが大変!

先ず、株価算定を行いました。

利益が出ていることと、資産もそこそこあったので「類似業種比準価額方式」を使いました。

同業種の上場会社の株価からスケールダウンして算定する方法です。


株価は50,000円額面で17万円。(当時はまだ額面制でした。)

この株価で③の比率になるように新株を発行するというのが通常であるが、それでは資金がかかりすぎて現在の役員の手持ち資金では引き受けきれない。


そこで考えたのが、新株引受権付社債(今で言う新株予約件付社債)。

まだ、ストックオプションも制度化されていない時代でした。

これにより、新株を引受ける権利だけを役員に付与しようとしました。

しかし、やはり問題は株価です。


そこで考えたのが裏技で、新株引受権付社債を株主割当で発行するという奇策でした。

株主割当とは、既存の株主比率に合わせて新株を割り当てること。

これにより、額面(50,000円)での発行が可能になります。


これを新株引受権付社債で行おうと言う事です。

でも、3人の比率が6:3:1にならない。

ここで、事前に株の譲渡を行ってもらい、先のその比率にする。


その上で、新株引受権付社債を発行。

しかも同時に11万円で第三者割当も慣行。(株主割当と第三者なので二つの株価が付いてもOKでした。)


という無茶を行いました。


(続く)

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 7

この資本政策を作るにあたって、必要な資料があります。


①事業計画及び資金計画

②株主名簿(現在の)

③将来の株主構成案

④3期分の納税申告所一式


最低でもこれだけの物が必要になります。


①はこれに従ってどの時期に幾ら資金が必要かを決めます。

②と③は今の株主構成と将来の株主構成を比較して、資金調達スキームを考えます。

④は①と組み合わせて株価算定を行います。



ベンチャーキャピタリストは発行会社のニーズを満たすように株式公開までの資本政策を作り、その中で自分達がどの位のシェア取って最終的に株式公開時の株価までを予測して、幾ら利益を出すかを算出します。

そしてIRR(内部投資収益率:投資した金額に対して、どのくらい分配金が戻ってきたのか、分配金を現在価値に引き直して複利計算し、その結果を年率で表示する。)を計算して、資本政策を固めていきます。

さて、資本政策に興味が湧いた方はこちらからサンプルがありますので、ご自由にご覧ください。

http://www.adventurespace.net/shihonseisaku.xls




IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠6

さて、ここで一旦横道に逸れて資本政策とは何かについてお話しましょう。


資本政策とは、事業計画と並行して策定するべき物で、事業の拡大に併せて資金調達や資本提携などを踏まえて資本をどう増やしていくかを考えることです。


このときに注意しなければいけないのが、持株比率です。

その会社が誰の持ち物かを表す比率です。


株式会社は社長のものではなく、社員のものでもなく、株主のものなのです。

ですので、筆頭株主=会社の所有権を一番たくさん持っている人となります。

株式会社というのは、株主総会が最高の意思決定機関になります。

株主総会で選ばれた取締役によって、運営がなされ、その運用に必要な権限が取締役会に渡されます。

 

ですので、資本政策で重要なのは、将来の株主構成をしっかり考えた上で、会社に必要な資金を直接金融を使ってどう調達していくかということです。

(直接金融:株式等を発行し、分売することで、自己資本としての資金調達を行うこと。間接金融:金融機関などから借入等の形で資金を調達すること。)


気が付いたら社長の持ち株比率が低くなっていて、他の大株主から追い出されたなんていう話も良くありますよね。

(続く)


IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 5

翌日、島村社長より電話があり、話があるので会社に来て欲しいと言われました。

会社へ駆けつけると、第一声、株式公開を目指して資本政策を始める。君のところに全て任せたいとのことでした。

飛び上がって喜びたいところをぐっと抑え、資本政策の策定から投資までの流れを伝え、ベンチャーキャピタル側でも審査があり、それに合格する必要がある旨を話しました。

私は早速、スケジューリングを行い、社内の審査部の訪問、監査法人によるショートレビュー(短期調査)、当社社長の訪問というスケジュールを組み、同時並行で資本政策の策定に入りました。

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 4

私は手に入れた三期分の税務申告書一式を基に財務分析を行います。

これには二つの目的があります。ひとつは前述の同業種の財務分析比較シートを作成するためです。

もうひとつは、メディカルイクィップメント社の財務内容をチェックして、投資対象となり得るかどうかを判定するためです。

先ず、前者のほうでは資本力の弱さから、過小資本の傾向がきっちりと出ます。

過小資本がビジネスのボトルネックになっている点とか、総資産回転率がかなり高かく、今投資すると投資効果が事業によく反映されるという資料に仕上げました。

後者の方ではもちろん粉飾も無く問題ありませんでした。



この資料がきっかけで、メディカルイクィップメント社との距離が一気に近づきました。

向こうとすれば決算書一式渡したことで、気が楽になったんでしょう。

やはり株式公開を目指すことも必要だと言う流れになってきました。

そんなある日、柏原役員から呼出がありました。

内容は銀行から出資の話が来ているので、もう結構だと言う内容でした。

私はショックを受けつつも島村社長に直接連絡をしました。

彼の返事は、柏原役員に内容を確認した上で改めて連絡すると言うことでした。

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 3

ベンチャーキャピタルの仕事は忍耐の要る仕事です。

有望先へ投資をするまでに時間がかかり、投資先企業が株式公開するまでにまた時間がかかり・・・。


私は月に1回程度の頻度でメディカルイクィップメント社へ顔を出しました。


何回目かの訪問の際に、ある資料を持って行き提案をしました。

その資料はメディカルイクィップメント社と同業の上場企業数社の財務分析を行い、並べて比較できるシートでした。

上場企業の財務諸表は簡単に手に入ります。

それぞれの企業の体質が如実に現れているシートを見て、島村社長は感心していました。


数字は嘘をつきません(粉飾していなければ)、島村社長が何となくこの会社はこういう会社だなと思っていることが、見事に数字に表れていました。


シートの最後はメディカルイクィップメント社の名前だけが入っており、後は空欄。

「三期分の納税申告所一式下さい。御社の分析もしてきます。」

「うん分かった、すぐ用意させよう。」と言って島村社長は内線電話をかけました。


資料を持ってきたのは財務担当の取締役の柏原役員であった。

柏原役員はこちらを訝しそうに見ながら社長に資料を渡しました。


島村社長は柏原役員に私を紹介して、三期分の書類を私に預けてくれました。

柏原役員は税理士の資格をもっており、税理士としての仕事も兼務しているとのことでした。


私は柏原役員に対し第一印象で少し嫌な感じを持ったことを今でも覚えています。

IPOマーケットを取り巻く反社会勢力の罠 2

日を跨いで、何度か同じようなやり取りの後、島村社長に電話が取り次がれました。

私は自分がベンチャーキャピタリストで、将来株式公開が狙えるベンチャー企業を探していること、それがまさに今見つかり、貴社であり、一度社長と会って話がしたいと伝えました。


島村社長の第一声は株式公開はあまり考えてない、会っても無駄になると言うようなものでした。

私はこの機を逃してなるものかと、食い下がり2日後の午前にアポイントをもらうことに成功しました。



アポイントの当日、JR稲毛駅からバスで10分くらいの停留所に降り立った私は、地図を片手に周りを見渡しました。


会社はすぐに見つかりました。1階が駐車場兼倉庫になったビルで、受付は2階にありました。

受付では先日の電話ではなした人だと思われる若い女性社員が立ち上がって迎えてくれました。

島村社長にアポイントがある旨伝えると、隣の建物へ案内されました。

部屋には机が三つと応接セットが一揃い。一番奥の机に島村社長だけが座っていましたが、私を見ると立ち上がって、「遠かったでしょう?」と名刺入れを出しながら笑いかけました。



ソファーに腰掛け、私は自社の紹介、昨今の株式公開状況、株式公開のメリット、デメリット等をここぞとばかりにしゃべりまくりました。

島村社長は真剣にその話を聞いたあと、メディカルイクィップメント社の事業内容について語ってくれました。


人工透析器の商社で、海外の医療機器のメーカーや、国内大手メーカーから仕入れて、病院に販売をしており、医師への最新機器のコンサルや、手術の立会いなど、単なる販売で終わらない付加価値を売りにしていました。また、3期連続増収増益であること、今期も順調に伸びていることを聞かされました。


島村社長は自分の事業は全て社員が頑張ってくれているからだと強調していました。

今でも私はそのときの誇らしげな顔が忘れられません。

私にとっての島村社長の第一印象は非常に良い物でした。


「取り敢えず、今は株式公開は考えてないけど、定期的に話し聞かせてよ。」

その日はそんな言葉で終わりました。


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